Vol.3 1ステージで複数の戦い

ツールドフランスの優勝者は、最もタイムが短い、つまり速かった選手である。これが個人総合優勝である。

ではレースでは、この優勝者を決める為だけに戦っているかというと、そうではない。実際には、個人総合優勝以外にも様々なタイトルや狙いが存在する為、それぞれの部門優勝を狙って、同じレースで、同時に様々な戦いが繰り広げられている。

よく選手の成績として、1位とのタイム差が2時間などと紹介される事があるが、このような選手は最初からタイム差に基づく部門では戦っていないから、タイムを縮める意図も必然性もなく、まったく参考にならない。

走るコースの地形によって、どの分野のタイトル争いが行われやすいのかをまとめた。


◆平坦ステージ
「ポイント賞、ステージ優勝」
中間ポイントを狙った逃げと、ゴール前の激しいゴールスプリントが見ものである。この両方は同じポイント賞の戦いではあるが、それとは別に、そのステージで優勝するステージ優勝も高い価値を持つ。特にスプリンターは、ポイントだけでなく、何勝するか、という勝ち星合戦をしている面もある。ただし勝ち星数は大会側からは公式な表彰は無い。

また、独走力に秀でた選手が残り数キロという所から単身飛び出し、そのまま怒涛の勢いで逃げ倒すという戦略を見せてくれる事もある。
反面、タイム差はほとんどつかず、山岳ポイントもつかないので、個人総合優勝や山岳賞争いはほぼなく、これら選手にとっては足を休ませる休養日となる。


◆起伏ステージ
「逃げによるステージ優勝、登れるスプリンターの優勝狙い」

起伏が多いと、必然的に登りが長手な選手が遅れやすく、登れる選手は先行しやすい。ポイントも低く設定されるのでポイント賞争いも消極的になり、その上、個人総合優勝者のタイム差がつくほどの戦いにはなりにくいので、これら選手も動きを見せにくい。

このような条件が整っている為、逃げる選手を積極的に追いかけるメリットが少なく、これら選手が思い切ってステージ優勝を狙う格好の条件となる。

またその中で、登れるスプリンターやパンチャー選手にとっては、平坦ステージ以上にライバルが少なくなるから、このような選手のゴールスプリントによるステージ優勝狙いが白熱する。


◆山岳ステージ
「個人総合優勝、山岳賞、逃げによるステージ優勝」

取り分け、個人総合優勝に大きな影響を及ぼすので、全体の中でも特に注目されるステージとなる。山岳ステージでは一緒に山岳ポイントが加算されるから、必然的に山岳賞狙いと個人総合優勝狙いが同居しやすい。むしろ、山岳ポイントが取れるという事は、個人総合優勝狙いの選手より更に先着してポイント&ゴール地点に到達してタイムを縮めている訳だから、そのまま個人総合優勝にも絡んできやすい。
その為、純粋に山岳賞だけを狙って戦うケースだけでなく、複合的に戦ったり、個人総合優勝狙いの人が山岳賞に輝く事もある。

一方で、スプリンターなど登りが苦手な選手やポイント賞狙いの選手、その他山でエースを引く役割でない選手などは、わざわざ足を使ってせっせと山を登る意味が全くないので、グルペットと呼ばれる集団を作ってタイムアウトぎりぎりのゆっくりペースで消耗を抑える。まれに、あまりにも遅すぎて、ペナルティとして獲得累計ポイントを半減されるという処置がされたことがあった。

◆タイムトライアルステージ
「個人総合優勝、ステージ優勝」
タイムトライアルは、タイム差を縮める以外に意味がないので、基本的には個人優勝争いの選手による到達タイム合戦である。
当然、スプリンターをはじめクライマーなど、タイムを縮める意味がない選手は脚を使って走る事はしない。ただし1着の選手より一定以上のタイム差があると、着外としてリタイアにされてしまうので、最低でもこれ以上のタイムではゴールする必要がある。

この中で、唯一、タイム差でなく1着を狙う存在が、タイムトライアルスペシャリストである。彼らの最大の活躍を見せられる晴れ舞台であり、総合優勝狙いの選手に勝たせるつもりなど毛頭ないであろう。


---ツールドフランスの、主な戦いの目標タイトル

◆個人総合優勝
総合一位はマイヨジョーヌ(黄色ジャージ)を着用する。タイム差が判断材料であり、タイム差を積極的につけられるステージで動き、反対のステージでは休む。

◆ポイント賞
平坦コースに設定される、中間ポイント・ゴールポイントの累計の高さを競う。1位はマイヨヴェール(緑ジャージ)を着用する。ポイントが高い平坦ステージで活発に戦いが進む。特にゴールはポイントが高いので、中間ポイント以上に争われる。TTや山岳ステージではポイントが皆無なので足を貯める。

◆山岳賞
山岳コースを中心に設定される。中間・ゴールポイントの累計の高さを競う。1位はマイヨポワンルージュ(赤玉ジャージ)を着用する。山岳ステージで活発に展開される。反面平坦やTTは全く関係ない。わざとTTなどで大きく遅れておけば、山岳で総合優勝狙いの選手に逃げを容認してもらえると思うが、反対に逃がし過ぎるとタイム差で逆転する可能性さえあるので、実際には総合優勝と絡みやすい。

◆ステージ優勝
一口にステージ優勝といっても複数のパターンがある。
1、実力的には勝ち目がない選手が、逃げやすい状況を狙って逃げ切り優勝を目指す。日の目を浴びにくい選手の優勝は賞賛される。
2、スプリンターが勝ち星として加算する。ただし最多勝利数などの表彰制度はない。
3、山岳や起伏など、そのステージの地形によって有利になった選手が1着を狙う。

◆チーム優勝
各ステージ上位3人のタイム差が判断材料となるので、山岳で複数の強力なアシスト選手を抱えるチームが結果的に獲得しやすい。結果的にあるチームが勝っているという形の方が目立ち、狙って動いているケースは少数である。

◆露出
全く表彰対象でも何でもないが、いわばファン、世間が高く評価してくれる行為を積極的に行う事で、存在を主張する。プロであるので、勝つことで注目を集めるのが本来だが、戦力的にそれが難しい場合、ある場面で輝かしい活躍を見せたり、積極的な展開を見せる事で
、活路を見出す。

以下、公式の記録ではなく、幾分独自研究も含まれてしまうが、見方の一つとして紹介する。

◆最多逃げ数
メイン集団に留まらず、とにかく逃げまくって積極的に動いた選手。何度も逃げている場面を目撃すれば、特別賞を贈呈したい気分にもなる。このような選手は結果的に敢闘賞を獲得しやすい。個人的にぜひ新設して頂きたい表彰制度である。

◆通算敢闘賞
全ステージを通じた敢闘賞。自分の有利な場面や仕事場面となる所だけ戦って、それ以外では休むのではなく、チームの疲労を肩代わりする為にせわしなく足を動かしたアシスト選手に日の目を当ててやりたい思いで企画して頂きたい表彰制度である。

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