Vol.4 ゴールスプリント

ゴールアーチを先に通過するために、ゴール直前では選手は急激にスピードを上げ、我先にとばかりにアタックを掛ける。

選手のアタックには、瞬間的に全力を出すスプリントと、数十秒に渡って高速を維持する、ロングスプリントがある。

やるなら1分くらい走り続ければ良いじゃないかと思うかも知れないが、試しに全力疾走を1分続けられるかやってみるとよく分かる。生理的に、人が生み出せるエネルギーは、爆発的に力を出せるが8秒程度しか持たない短スプリント(ATP-CP由来)と、爆発的ではないが速くて30秒程度までは高速を持続できる長スプリント(解糖由来)がある。陸上競技ていう所の、100m走と400m走の違いと言えよう。100m走のペースで400mは走れないし、400mのペースで1kmは走れない。もちもん、更に負荷を落とせば、800m走程度の1分弱のスプリントにもなりえる。

ゴールスプリントでは、非常に複雑な駆け引きが行なわれる。単純に力がある人がそのまま勝つという事はない。

例えば、ゴールまで1分の地点から、ギリギリ持久出来る速度で走ったとする。しかし1分持続する速度は劇的に高速という訳ではなく、他の選手が容易に追走出来る。こうなると、ゴール直前に後ろの選手が8秒程度の猛烈なスプリントを掛け、直前で抜いてゴールする事は明白である。このような走りを追い込みという。

であれば、ある選手を前で走らせ、自分が後ろに入って、最後に猛スピードを出して勝つのが理想となる。このためロードレースにおいては、仲間が前を引き高速で走り、スプリントが得意な選手が最後に猛スピードで前に出て、勝利を獲る、という作戦が非常に有力である。

この中で、トレインと言われる作戦がある。チームで5名などと一列に並び、先頭の選手が30秒などで力尽きるスプリントを繰り返しては次の選手が引き継ぎ、最後にしんがりの選手が全力のスプリントを仕掛けて勝利を狙うチーム戦略である。

このトレインでよく誤解されるのは、選手1人ごとに+5km/hなどと徐々に加速をして行き、最後の選手でMAX速度を出すと思われている点であるが、現実には、前にいる選手が4人とも60km/hなどという、他のチームや選手が容易には追いつけない速度でゴール前まで進み、幾分前方を走っている有利な位置を確保したまま最後尾の選手にバトンタッチする事にある。当然ながらこの場合は、出来るだけ速く、長く前を引く事が出来るチームが有利だ。

トレインの連結台数の長さも威力に関係する。トレイン合戦になった場合、相手を避けて追い抜いて行かなければならないが(これを捲りという)、相手のトレインが長いと、その台数分、自力で前に出ていく時間が長くなる。

タダ乗りという戦法もある。敵のトレインを抜かすことが出来ないとみられる場合、敵のトレインの最後尾に乗り移って、最後のダッシュで真っ向勝負する方法である。タイミング的には、敵トレインの最後尾の選手よりさらに車体1台分前に出るスプリントをしなければならないが、タイミングよく仕掛ける事で勝利を獲得するケースも多い。

(C)Wnd Bells Bicycle Club, Nanairoenpitsu.2010