スプリント・集団テクニカル 
集団性が戦略を生む

 トレイン

スプリントは一時的に高い力を発揮し、急激な加速を実現するが、持続できる時間が短い。

そこで、スプリントで非常に影響が高くなるのが、他者を利用した風除けや、位置取りである。単独では70km/hに達する事は困難(達する前に疲労する)であっても、他者が加速し、その後ろに入って風除けを受けたりなどする事で、疲労せずに高速度に上げる事が出来、その上がった速度から更に力を加えて、より加速をする事が出来る。

トレインとは、このような特性から、選手同士が一列に連なる集団を形成する事を言う。電車のように車両を連結しているように見える事からトレインと称される。
トレインは、仲間同士で形成する事もあれば、敵同士が一時的に共闘して形成するケース、共闘はしていないが、結果的に車列化しているケースがある。


 チームトレイン

主に仲間同士で行なう陣形で、3名などの選手が1列に並び、前の選手が途中で力尽きるのを承知でペースを上げ、最後尾の選手を勝たせる為に行う。

まず先頭の選手が持久力を消耗して50km/hなどに速度を上げる。この選手はここで持久力が尽きて離脱するが、続いて2番目の選手がそこから更に加速をし、60km/hなどに速度を引き上げる。この選手もやはり加速で持久力が尽きてしまうが、最後に最後尾の選手がこの速度から全力でスプリントをする事で、70km/hという高速に乗せるのである。

なお、この最後尾の選手の更に後ろに他の選手が潜り込み、この車列を利用して勝利を狙う事もしばしば行なわれ、これを俗にタダ乗り、無賃乗車などと称するが、このように後続では良い位置を取る為の熾烈な位置取り合戦が行なわれる。

トラック競技種目のチームスプリントは、このトレインによる競争そのものである。


 競輪に見られるトレイン

例えば5人でゴールスプリントする場面であっても、このうち2名がチームメイト同士である場合、協力しながら走る事が出来る為、この2人が有利になりやすい。そのためライバル同士であっても、一時的に共闘してチームを作り、チーム同士での戦いを形成する事がある。

これの顕著な例として、競輪がある。また競輪は後に記す「スプリント」の項目においても、大変動きが分かり易いため、ここで取り上げる。

競輪は通常9人で出走し、その着順を競う訳であるが、この9人が、3人ずつ3列のトレインを形成して勝負をする事が多い。理由には色々な背景があるが、ある3人がトレインを形成した場合、残りの6名が単独で勝負を挑むのは非常に負が悪い。

そこで残りのメンバーもそれぞれトレインを形成し、これに対抗する。これによって、9人の個人戦ではあるが、チーム対チーム戦という様相を呈する。

また競輪の主催側も、チーム対個人になって結果が読めるような展開にならないよう、事前にトレインが形成され易いような人選を最初から行なっている。例えば、競輪学校で同期だった選手、トレーニング仲間、兄弟、などである。

しかし、トレインを組んでいても、敵同士であるから、あくまで一時的な共闘であり、最後は自分が先着を狙う点が、仲間同士のトレインと決定的に異なる。

一般的にトレインは、3名で3チームになる事が多いが、この3名の車列の順番によって、役割が異なる。

●先行(1番手)
前に誰もいない、空気抵抗にさらされる位置にて、後続の2名を引き連れて走行をする。先頭を引く代わりに、後続の2名には、他のトレインが追い越して来ないようにブロックをしてもらう事により共闘をする。そうすれば最低でも自分は3位以内に入る。

逆に自分が遅れをとっている場合は、前を走る別のトレインの脇を自力で追い越していく、捲りを仕掛ける。

ただし、後続の2名も最後は敵であるから、これより先にゴールするべく、早い段階からスピードを上げて持久戦に持ち込み、後続を疲弊させてスプリント力を落とさせたり、うまく行けば後続をちぎって単独で逃げ切る戦法をとる。
主に持久力があり、ロングスプリントが得意な選手や、体力がある若い選手が行なう事が多い。

●追込(番手)
先行する選手の後ろに付く、2番手、3番手の選手であり、風除けを受けるため比較的楽な位置である。しかし先行選手が別の車列に抜かれたり、追いかけて疲れてしまったりすると、後ろにいる自分達も不利になる為、追いかけてくる別の選手を追い越されないようにブロックしたりなど、先行選手を有利にさせるサポートをする。
最後には先行選手を追い抜いて先着ゴールする事を狙う。持久力よりも最後の追込みで一瞬の爆発を見せるキレのある選手が向く。


◆世界選手権におけるケイリン
競輪は国際競技として、同一のルールで行なわれるKEIRINとしてトラック種目の一つに数えられているが、競輪と違い、上記のような3列のトレイン同士が合戦を繰り広げるような先方はほとんど見る事が出来ない。こちらのKEIRINは、主催者よって仲間を組み易いように作ったりする事が無い事もあってか、トレイン形成は見られず、単純に、9人によるゴールスプリント合戦に近い戦いとなる。


 競輪からスプリントへ

競輪は前記のように、9人が9人ともバラバラに戦うのではなく、主に3チーム同士の戦いという形で戦いを進める分、比較的展開が整理されており、スプリントの学習がし易い。

逃げを狙う選手の特徴、その後ろにもぐりこんで、最後に追い抜く選手の特徴、これとは別のラインから攻めてくる選手の特徴といった大きく3つのパターンを理解すると、次のゴールスプリントの戦略において理解がし易くなる。


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