スプリント・集団テクニカル 
集団性が戦略を生む


 アタック

他の誰かが自分の後ろに入ってスリップストリームを受けられないよう、急加速して引き離しす事を、アタックという。

引き離された相手は、前を走る選手と同じ空気抵抗が発生する為、同じ負担が発生する。

このようなアタックは、一方に楽をさせず負担をさせる事で相手を追い込む事を目的としたり、後続を引き離す事で自分はいく分前を走るから、それだけゴールに近く、後続が追いついてくる前に先着してしまう事を狙ったものである。

イラストでは先頭の選手がアタックを掛けているが、後ろの選手が前を走る選手を出し抜いてアタックを仕掛けるケースもある。


 アタックのデメリット

アタックをした場合、後続を振り切ってチャンスを掴んだように感じやすいが、集団の中から少人数(あるいは1人)で飛び出す訳であるから、以降は負担が大きい状態のまま、特に逃げるつもりであるから、後続を引き離すペースで走る必要があるため、体力を消耗する。

この際もし後続の集団がローテーションで速度を上げてきたら容易に追いつかれてしまうだろうし、もし追いつかれてしまったら、自分だけ飛び出した分体力を消耗し、状況を悪くしてしまう。

このようにアタックは、ただ仕掛ければ良いのではなく、負担を承知の上で、単独ないし少人数で飛び出したり、そのような動きを見せる方が、結果的に自分に有利に働く状況において、初めて有効性を発揮する。

 アタックのチャンス

例えば、同じ能力の選手が2名で走っているとする。この際、一方の選手が半分の体力しか無い場合は、もう一方の選手がアタックを掛けて同じ空気抵抗を発生させる事に成功すれば、やがて体力が半分の選手が先に失速するだろう。このようにアタックを仕掛ける利点がある状況をアタックチャンスと良い、その仕掛けどころをアタックポイントを言う。

また、アタックは100%成功する訳ではなく、成功率は低いが非常に有利になる場面や、失敗すると大きく不利になるリスクの高いチャンスもある。そのような状況で仕掛けるか、確実な場面で手堅く行なうかは、その選手の考え方や戦略による。

◆先着を狙った一時的な加速
アタックは、いく分か他の選手より前に出て走る分、ゴールまでの距離が短くなるから、その分先着し易くなる事を狙って仕掛ける。単純な話だが、同じ走力の選手がいて、1人が50m前を走っているのであれば、当然その選手が50m分有利である。

仮に集団からアタックを仕掛け、後続の選手に追いつかれるのに1分掛かるとする。であれば、ゴールまで残り1分を切っていれば、アタックをすれば追いつかれる前に逃げ切る事ができる理屈になる。つまりこのような状況はアタックチャンスといえる。

しかし他の選手も同じ事を考えるし、逆にアタックする選手の後ろに入り込み、そのまま連れて行ってもらい、最後に追い抜く事を狙う選手もいるなど、行動は複雑である。

これの連鎖が、いわゆる「ゴールスプリント」であるが、これは別項にて取り上げる。

◆遅い選手を振り切るアタック
前の選手が40km/h、後ろの選手が38km/hで走る力があるとする。しかしドラフティングの効果で、後ろの選手は追走出来ている。

このような選手を振り切る事を目的にアタックを仕掛ける事も多い。一度振り切ってしまえば、もともとの速度は2km/h違うのであるから、どんどん差は開いていくだろう。

代表的な例としては、体力を消耗して速度が低下した選手を切り離す場合や、登りが苦手な選手を坂で振り切ったりするケースである。

同じ位の走力を持つ選手同士であっても、振り切る事に成功さえすれば、自分がいく分か前を走る分、残り距離において有利となる。


◆疲弊した時を狙ったアタック
一時的に急加速などをすれば、一時的に疲労する。このような一時的な力の減退時も、格好のアタックチャンスとなる。また、ライバルを疲れさせる為に、わざと捉まる事を前提の上で揺さぶりを掛けるアタックや、他者がアタックを仕掛けてこれに付いて行き、その人が疲れたタイミングで、逆にこちらがアタックを仕掛けるカウンターアタックは典型的な(定石的な)アタックポイントである。

◆集団を絞る為のアタック
前項ローテーションで上げたように、ローテーションは比較的少人数(4〜5人)で行なう方がやり易く、十分な負担軽減と速度上昇を期待できる。
しかしこれ以上人数が大きいと、後方にいる選手はローテーションに参加しなかったり、参加すると帰って動きが鈍くなったりする。
そのため、集団から4・5人程度になるまでアタックを行ない、参加人数をいくらか絞る目的で行なう。


 アタックを仕掛ける戦略

スタート直後、あるいはスタートして落ち着くまでは、誰でもアタックを予想するし、ゴールに迫ってきた段階でも、アタックを予想する。当然相手も構えるから、決まりにくい。むしろ、誰かのアタックを待って待機している選手がゴロゴロおり、ここに複雑な駆け引きが発生する。

ここではアタックが決まり易い状況をいくつか取り上げる。

◆アタックポイントではない場所でアタックする
誰でも想像が付くアタックポイントは、誰もがそれを狙い、誰もがそれに対処するよう準備しているから、決まりにくいし、それを利用されて別の人を有利にさせてしまうなど、単純なアタックはただの餌食にもなりえる。

逆を言うと、こんな場所でアタックを掛けるメリットは無いだろう、という場面で実行すると、相手が警戒しないから、決まる確率が急上昇する。

ただしメリットの高い場面ではないから、通常ではそのメリットは小さい。しかし、その意外な展開から、意味が無いと判断して誰も追いかけず、想像以上に差が開いて有利になったり、他の選手がけん制し合って、逃げた選手を追いか損ねたりする事もある。単純に力だけでは勝ち目が無い選手などが揺さぶりを狙ったり、低い確率に掛けて仕掛けるケースでもあるし、作戦に長ける選手も好んで実行し、集団を大混乱に陥らせる。

◆誤情報を飛ばす
わざと加速や力の弱いアタックを全力で行なっているように見せたり、登坂時にさほど速くないペースで登って登坂の実力が無いように見せたり、わざと集団から遅れて見せる、息を荒れさせて見せる、という誤った情報を出す事によって、周囲の計算を見誤らせ、集団を大パニックに陥らせる事ができる。これも頭脳派の選手が好んで行なう。

◆ペダル回転数が低い時を狙う
周囲のライダーのペダル回転数が低い時は、瞬間的な加速が難しい為、アタックが決まり易い。結果的であるが、ペダルの回転数が低いときは、誰もアタックを考えていない場所でもある。

逆に言うと、自分がペダルを重くしていると、周囲もアタックの警戒が薄らぐ。そこで、ギアを重くし、高速安定走行にシフトしたように装って、アタックを掛けると、欺き易い。

◆アップポジションでアタックする
ドロップポジションは空気抵抗が落ちる為、アタックの際にはよく用いる。だれでも、アップ(ブラケット先端を握って体を起こす)ポジションから、ドロップポジションに持ち替えたら、アタックなどを警戒する。しかし逆に、そのドロップポジションからアップポジションに戻すと、攻撃モードを解除したように思わせやすい。その直後にアタックチャンスが生まれる。

◆振り向いた方向と反対方向からアタックする
先行する選手が右向きに振り向いて後続選手を確認したら、反対の左側への警戒心が薄れやすく、その左側からアタックを掛けると相手の反応が鈍くやりやすい経験則を、ランス・アームストロングが挙げている。


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